テニスクラブのContrast 〜変化色々木曜日の対比。〜

「…どう思うよ?」
「冗談としか思えない。」

某高等学校の休み時間。
毎度御馴染み、さんとさんは屋上にて寝そべりながら
盛大な嘆息を漏らしていた。

「何で木曜日はメインコーチオンリーな訳?!」
「…、さっきから標準語になってるわよ。ま、私もおんなじこと言いたいけど。」
「標準語にもなってまうわ、だって昨日は昨日で乾のにーちゃんの汁で
えらい目に()うたってのに今日はよりによってあのナルシストしかおらんねんで?!
…フォローしてくれる人が誰もおらへんなんて考えただけで背筋凍るわ。」

プリンステニスクラブのカードを握り締めながら
さんはこれでもかと言わんばかりにまくし立てる。
そんな友にさんはポツリ、と一言。

「アンタ、その内闇討ちに遭うわよ。」
「いや、人のこと言われへんやろ。かて千石のにーちゃんのこと
 大概ボロクソやないか。」
「そんなこと知らない。思ったこと言ってるだけだし。」
「………………おい。」


2人のお嬢さんが言いたい放題言っていた同じ頃、
プリンステニスクラブのコーチ室ではこんな会話が繰り広げられていた。

「…あーあ、今日のの嬢ちゃんの担当はサディストか。可哀想に。」
「誰がサディストだ、忍足。」
「お前の他に誰がおんねん!」

「千石さん、言っときますけどくれぐれも暴走しないでくださいね。」
「大丈夫だって、心配性だなぁ鳳クンはっ☆」
「信用していいのかなぁ…」

ま、色んな不安を孕みながら今日も対比が始まったりするのだった。



さて、いつもならここでさんとさんの視点から話をするところなのだが、
あんましそればっかも芸がないので今回はまず
2人のコーチの視点から話をしてみたりする。

『跡部景吾氏の場合』

跡部景吾氏、と言えばプリンステニスクラブに勤める若手コーチの中でも
突出している御仁である。
テニスの実力とコーチとしての資質は勿論、家よし顔よし頭よしと
三拍子揃ってるもんだから女性受けもよろしい。

で、ご本人もそれをきっちり自覚していたりして、
それは影で『ナルシスト』呼ばわりされている要因となっているがそれはともかく、
そんな跡部氏だからして一応女性の生徒に対してはそれなりの対応をしていた。

しかし。
最近担当することになった生徒に関しては彼はその限りではなかった。


知っている人が聞いたら間違いなく腰を抜かす話だが、
跡部氏は今度来た関西弁少女に辟易していた。

その理由には主に今まで会った事のないくらい運動音痴でドンくさいのに
イライラさせられるとか気弱なくせに態度で微妙に反抗を示すのが
ムカつくとかがあるが、
何に一番困るかというと本人にはその気はないのに跡部コーチに
災難をもたらすことなんである。

「おい、。」

今日も今日とて、跡部景吾氏は不機嫌な顔で18の小娘を見下ろしていた。
コーチに睨まれている当の小娘…もとい少女の方は
『う゛〜』と呻きながらうな垂れている。

「別に俺様はてめーに好かれようとは思ってねーよ。」
「はあ。」
「どーせてめぇも俺様に思うとこは色々あるんだろ。」
「え、え〜とぉ…」
「それは別に構わねぇよ、別に。だがな…」

 グワシッ。

「どこをどーすりゃ壁打ちで打ち損ねた球が
全部俺様に当たるんだっ、ああっ?!」
「ぴぎゃーっ、御免なさーーーーーーーーーーいっ!!!」
「逃げんな、このバカガキっっっっっ!!!」

 ドギャッ

少女の首ねっこを掴んでいた跡部氏は今度は思わず掴んでた手を離して
その背中を足蹴にする。

いちいち突っ込んでくる忍足氏やさりげなく止めに入る乾氏が
いないからこそ出来る芸当である。

ともあれ、跡部コーチ言うところの
『器量は悪ィ、飲み込みは悪ィ、要領は悪ィの3拍子揃った女のガキ』は
本日上記↑のような災難を彼にもたらした。

言うまでもなくさんに悪気はない。
それに跡部氏だってさんが壁打ちをしている間、
自分は優雅にベンチに座って本を読むのに夢中で
避けられるものを避けようとしなかったんだから悪いと言えば悪い。

だが生憎中学の頃から有名な跡部氏の特殊な性格の構造上、
油断してた自分も悪かったよな、と考える頭なんぞあるはずがない。

とにかく月曜日に引き続いてがまた自分にボールをぶつけた。

それが今の跡部氏にとっては重要なんである。

、お前はあれか?俺様に何かふくむトコでもあんのか?」
「いっ、いーえっ、とんでもない!!」

ブンブン首を横に振る少女に、跡部氏は嘘吐け、と思った。
ふくむトコがなきゃここ数日のレッスンで事ある毎に何か突っ込みたそーな面を
してるわけねーだろ、このガキ。大人をなめてんじゃねーぞ。

「ほほぉ、んじゃ何か、月曜といー今日といー俺がてめぇの球を
食らうのは他に意味でもあんのか?」

勿論、さんに悪気はないのはわかってるが厭味攻撃の1つでもしないと
跡部氏の腹の虫は収まらない。

「いや、せやからわざとちゃうんですって…」
「うるせーんだよ。」

跡部氏は半べその少女に宣告した。

「素振り1000回、サボんじゃねーぞ。」

そっそんなぁ〜、と声を上げる少女に跡部氏はダメ押しをする。
さんはうーうー、と呻きながら言われたとおりにし始める。

ざまぁみろ。

少女に背を向けながら跡部氏は笑みを浮かべる。

俺様にボールぶつけやがるからだ。

………同僚にサディストと言われてもあまり文句は言えないかもしれない跡部氏だった。


『千石清純氏の場合』

千石清純氏、と言えばとにもかくにも可愛い女の子が大好きで見境がないことで有名だ。

担当する生徒が女性―それも可愛い―となると
そらもー周囲が頭を抱えるくらいの暴走っぷりを示す。

しかし不思議なことに今まで大きな問題に発展したことはない。
本人が何だかんだやらかしながらも気をつけているのか、
鳳氏や神尾氏をはじめとする周囲が余程注意しているのか、
その辺は不明だが。

ともあれ千石清純氏にとっては『この世の女の子全部が自分のタイプ』なんである。

そのせいだろうか、女性に至極親切な彼に対する女性生徒の評価は上々だ。

……ただ1人の例外を除いて。


「ねえ、ちゃん。」

木曜日の空の下、千石氏は典型的な無駄な努力をしていた。

ちゃんって高校生だったよねー?彼氏とかはいるのかな?」
「…いません。男嫌いだし。」
「えー、勿体無いなー。」

千石氏はズズイっとさんの方に寄る。

ちなみに無意識の行為なのでかなり問題かもしれない。

ついでに言うとさんはこの時、数センチほど身を遠ざけていたのだが
千石氏は気づいていなかった。

ちゃんはこんなに可愛いのに。見る目ない男ばっかだねー、
 おかげで俺はラッキーだけど☆」
「私は違うし。(キッパリ)」

……………………………。

とまあこんな具合にレッスンが始まってからとゆーもの千石氏は
新しい生徒と必死でコミュニケーションを図っていたが、
それはことごとく徒労に終わっていた。
つーのも、という少女は警戒心丸出しだったからである。

何を聞いても、『別に』『興味ないです』『知りません』等の答えしか
返ってこなくて会話が2往復より多く出来たことが一度もない。

だがしかし、こんなことでへこたれる千石氏ではないのは最早周知の事実だ。

ちゃん、そう警戒しなくていいって。」

引きつるさんのことなぞどこ吹く風でのたまう千石氏の脳味噌の中は、

『なんとしてもちゃんと楽しい会話を実現したい!!』

とゆーささやかな野望で満たされている。

何でそんなに固執するのかというと、さんは
『この世の女の子全部が自分のタイプ』である千石氏の中でも
飛びぬけて好みだったんである。
さんにとっては運の悪い話かもしれないが。

「俺別にちゃんのこと、苛めるつもりはないんだしさ。」

ここで、『寧ろ仲良くなりたいんだけどなー』と言いながらさんの顔を
覗き込もうとした千石氏の視界はいきなし白と青の格子模様に彩られた。

「えーとぉ……ちゃん、そんなに俺のこと嫌い?」

まるでそれ以上近づくなといわんばかりに顔の前に現れた
ラケットのガット(のどアップ)を見つめながら千石氏は苦笑せざるを得ない。

「近くで顔見られるの、好きじゃないんです。」

俯いてボソボソと呟くさんを見て、千石氏はますます彼女を可愛い、と思った。
…女好きもここまでくれば国宝級か病気かの瀬戸際であろう。

「あの。」
「何?!」

珍しくさんから話し出したので、千石氏はついテンション高く返事をしてしまった。

「どうして私にそんなに構うんですか?」
「んー?さっきも言ったでしょ、仲良くなりたいからだよ。」
「はあ。」

何だかキョトンとしているさんを千石氏は怪訝に思う。

「どーかした?」
「……男の人にそんなこと言われたの初めてです。」

今度は千石氏がキョトンとする番だった。

「……マジ?」
「はい。」

この後千石氏はまた『勿体無いなーこんなに可愛いのにー』と言いながら
両手を握るという行為に出てしまった。

ガスッ

「それ以上近寄らないでください。」
「ひどいなぁ〜、何も蹴らなくても…グスン。」
「知りません。」


俺様、サディスト、不親切。
親切、お気楽、でも軟派。

今更ながら跡部コーチと千石コーチはまさに対比するに相応しい人たちと言えよう。

とゆー訳で、今度はお馴染み、2人のお嬢さんの方に視点を移行してみたりする。


さんの場合』

さんは今日も元気に本日の自分の受難に対して脳内突込みを繰り返していた。

(くっそー、何でやねん…)

さんはピクつく手でラケットのグリップを握りながらこう思っていた。

(私は単に必死こいて壁打ちしとっただけやとゆーのに…)

あんな至近距離で優雅に独逸語の本なんぞを
読んではる方も悪いんやないか!!


頭の中にもかかわらず『読んではる』と関西弁の丁寧語を使ってる辺り、
さんはお人よしかもしれない。
ついでにコーチが読んでいた本が独逸語(ドイツご)だと断定できるのは
彼女の役に立つのか立たないのかわからない雑学その他の知識の賜物である。

ともあれ脳内で文句を垂れながらさんはメインコーチを
こっそり睨んでいたのだが、丁度その時跡部氏が本から目を離した。

「あんだ、。俺に見とれてんのか?罰くらってんのにヨユーだな。」
「!!」

じょーだんやないっっっ!!!

さんの突込みが頭の中で炸裂する。

「俺様が気になるのか?ま、気持ちはわかるがな。」

せやからっ!見とれてへんって!

1人、優越感に浸りながら喋る跡部氏にさんはこっそりため息。

………自己陶酔もここまで来たらビョーキやな。

阿呆くさくなってきたさんはコーチの台詞を聞かなかったふりをして
再び素振りに戻る。

。」
「はっ、はい!」

いきなり呼ばれてさんは振り返る。
で、その瞬間だった。

  ヒュンッ ギチッ ビュン

「あ…」

  カラカラカラカラ

何がどうなったのか説明しよう。

まず跡部氏がさんに向かっていきなり球を投げた。
さんは反射的にそれをとらえた。
しかし、ラケットが彼女の手からすっぽ抜けてしまい、後ろへ虚しくすっ飛んでしまった。

とまー、こーゆーわけである。

「俺様を無視してんじゃねー。」

跡部氏が呟く。

さんは思わずアンタ、ガキか。と内心で呟く。

「お前つくづくいい根性してんな、大して強気な方でもねーくせに。
人にボールぶつけるわ無視はするわ、ここまでふざけた生徒はてめぇが初めてだ。」

あのぉ、別にふざけてるとかそんなんちゃうんですけど。
確かにおにーさんのことは苦手やけど、わざと怒らせるつもりは全然ないし…。

すっ飛んでしまったラケットを拾いながらさんは虚しく胸中でひとりごちる。

まあこの場合、口に出しても問題はないかもしれないが
多分跡部氏は聞く耳を持たないものと思われる。

「昔なら絶対容赦しねぇ。だが、俺様も心が広くなったからな、大目に見てやる。」

この瞬間、さんの全身からザザザザザと派手な音を立てて血の気が引いていった。

誰の心が広いって??

哀れな少女の体はガタガタ震えだす。

「せぇぜぇ俺様の好きなように楽しませてもらうぜ、の嬢ちゃんよ?

跡部コーチがニタァっと笑いかけたので、さんはグラリと体をのけぞらせた。

さっ、最悪やっ。

状況悪化してもたやんっっ!!!!

18歳。この瞬間、彼女は自分の命はもう果てたと思った。


さんの場合』

親友が昇天しかかってる頃、さんはちょっとした転機を迎えようとしていた。
……いや、それまではごくごくフツーにレッスンの最中だったんであるが。

その時さんは千石氏の指導の下、爽やかに汗を掻いていた。

「やー、ちゃん大分進歩してるねー。よかったよかった☆
 このままドンドン行こうねー。」

褒める千石氏は相変わらずご機嫌である。

さっきさんに蹴飛ばされた(自業自得ではあるが)にも関わらず
この明るさを保ってる辺り、
さんは彼をやっぱりあまり物事を深く考えないタチらしいと思う。

軽そうだしやたら馴れ馴れしいが、んとこのコーチように
後でネチネチやってくる相手よりは随分と助かる。

それに実のところ、さすがのさんも千石氏の積極アタック(?)に
ボチボチ慣れ始めてたりしてた。

後は今日1日面倒なことが起きない―特にが起こさない―ことを祈るのみ。

そんな風にしばらくやってた頃だ。

「オッケー、ちゃん、ちょっと休憩しよっか。」

千石氏が言ったので、さんはちょっと吃驚した。
とゆーのも彼女はまだそんなに消耗していない。

「え、でも…」
ちゃんはあんまり消耗させない方がいいみたいだって
 鳳クンから昨日聞いたからね。」

それを聞いてさんはまたちょっと吃驚。
…一応、考えてくれてるんだ。

ま、仕事柄当たり前と言えば当たり前なのだろーが。

「あ、あの…水飲みに行ってきていいですか?」
「いいよいいよ、いってらっしゃーい。」

パタパタと手を振る千石氏に見送られてさんはコートの出入り口を開け、外に出る。
そこでさんはそのまま水飲み場の方へ行こうとしたのだが、

   ドンッ

ふとボールが叩きつけられる鈍い音がして彼女はコートの方を振り返った。

見れば千石氏が1人、コートで練習していた。
あの様子だとさんはとっくに行ってしまったと思っているものと考えられる。

この時千石氏がやってたのは、一番最初のレッスンの時に
彼がついつい調子に乗って披露した
(そんで関係者一同にブーイングをくらった)虎砲である。

まーそれだけなら別に前も見たからどっちゅーことはないのだが。
しかし、千石氏が見事な虎砲を繰り出した時、さんは見てしまった。

………………千石氏が今まで見たことないくらい、
非常に真面目で鋭い目つきをしているのを。

そして、彼女の中で非常にとーとつなる変化が起こった。

「かっこいい……」

こんなさんの台詞を聞けば言うまでもあるまい。

千石氏のその目を見たさんは『一目ぼれ』しちまったんである。

『一目ぼれ』と言っても間違ってもお米の名前ではない。
"fall in love with him at first sight"である。

とにかくさんはポーッとなった。
今までその友すら見たことないくらいポーッとなってしまった。

少女マンガもびっくりな高速展開だ。
そんでもってさんは肝心のことを忘れてた。

「あれ?ちゃん、」

いつの間にやら、気がついた千石氏がこっちを見てた。

「もー行ってきたの?早いねー。」
「え、いえ、その…」

さんは決まり悪くなって、俯くしかなかった。


つー訳で木曜日は変化の日。

状況悪化のさん、プラスに変化のさん。
何が起こるかわからない、木曜日は侮りがたし。

「オラ、。ぼさっとしてねーでさっさと打て!」
「…絶対イジメや。」
「何か言ったか?」
「いーえ、別にっ!!!!」

ちゃん、大丈夫?何か顔赤いけど?」
「…大丈夫です。」
「ならいいけど、無理しちゃイカンぞー。体壊したらアンラッキーだからねっ。」
「は、はい…」

そんなこんなでやってる内に、毎度御馴染み休憩時間がやってくる。



「そりは(それは)マジですか、さん?」
「"そりは"って関西弁なの?」
「いや、単に私の趣味…って、それはともかくホンマなん?」

さんは乳酸飲料(アロエ入り)を飲みながら、俄かには
信じ難いと言わんばかりに問うた。

「そんなに意外な訳?」
「だって、ともあろう人が『一目ぼれ』のふぉーりんらう゛になったなんて
 そない簡単に思えるかいな!しかも相手はあんだけ文句言うてた千石さんやなんて…」
「『一目ぼれ』のフォーリンラウ゛って、アンタね。その上そこまで言うなんて。」
「そない言うけど…」

どーもなぁ、と首を傾げる友にさんはハァ、とため息。

「まあ、私も自分で吃驚してるんだけど…なっちゃったものは仕方ないでしょ。」
「そらまーな、嫌いよか好きな方がずっとええし。しかしホンマ唐突やなぁ、
 考えてみりゃアンタは昔から…」
「もうっ、うるさい!」

さんはさんの肩を軽くはたく。
ちなみに頬はほんのり桜貝。

「かっこいいもんはかっこいいんだからいいの!」
「わ、わかったからボフボフはたかんといて…ゲフゲフ。」
「ところで、アンタさっきから顔色悪いけどまた何かやらかしたの?」

  カチーン

さんが尋ねると、さんは何やら引きつった笑みを浮かべて硬直してしまった。


ちなみに同じ頃。

「それでねー跡部クン、何かちゃんが俺のこと見ててくれてたみたいでさっ☆
 やあ、嬉しいなぁ〜♪」
「ハンッ、たかだかガキにウケたくらいで浮かれてんじゃねーよ、バーカ。」
「あれ、跡部クン、まさか羨ましいのかなぁ〜?」
「死にてぇか、このヤロ。」
「アッハッハッハ、じょーだんじょーだん。怖いなぁ、もう☆」

生徒達が休み時間を楽しく(?)喋って過ごしてるのと同様、
コーチ方も話に花を咲かせているところだった。
尤も、この場合組み合わせがとんでもないが。

「…つーかテメェの前にだ、。あのガキ、マジコロス。」
「そんなに怒らなくても、まだまだ慣れてないんだから。
 俺だって時々ちゃんのボールに当たっちゃうよ?」
「てめぇはワザとじゃねーのか、千石。」
「ヤダなぁ、俺は変態さんじゃないんだからさー。
 ホントに避けれない時だってあるんだって。」

ヘラヘラ笑いながら手をパタパタさせる千石氏に、
跡部氏はどーもこいつは信用ならねー、と思う。

「そーゆー跡部クンこそ、ワザと当たってるんじゃない?」
「んなワケねーだろ、何で俺様がそんなことしなきゃなんねーんだ!!」
「はいはい、どの道あんまり苛めちゃダメだよ〜?」

アッハッハッハ。

「千石、テメーッ!!」

呑気に笑う千石氏の背中を跡部氏は蹴飛ばしてやろーとした。
が、普段極端に気の短い彼はこの時奇跡的に耐えた。
人目があったので。(女の子の)

「でもねぇ、跡部クンって文句言いながら実はちゃんで楽しんでない?」
「ハァ?バカか、てめぇ。どこどーやったらそーなんだよ。」
「あー、説得力ないなぁ。どう見ても楽しんでるよー?てゆーかさ、」

まだなんかあんのか、と跡部氏はうんざりした顔で千石氏を見た。

「何だか跡部クン見てたら妹に構ってほしがってるお兄ちゃんみたいだよ。」
「………今すぐ3000回殺してやってもいいんだぜ。」
「うわー一度じゃ済まないんだ、怖い怖い。ま、そーゆーことだから。」
「待て、千石。」
「それじゃ、休憩時間もそろそろ終わりだし俺はちゃん♪とこに
 戻るから。じゃあねぇ〜☆」
「人の話を聞け!」

………………………………。

「楽しんでる?俺様が?」

千石氏が去った後、残された跡部氏は1人ポツリと呟く。

「馬鹿な。」

この瞬間、跡部氏の中でなんか微妙な変化が訪れた。

…………ホントに微妙だけど。


「…さんは死にました、今ミャンマーで竪琴弾いてます。
 ってゆーか人生とは所詮受難の日々です、みんな年金未納が悪いんだ………」


背を向けて、膝を抱えて、乳酸飲料(くどいよーだがアロエ入り)の
カンカンに向かって何やら辻褄の合わない事を1人呟きだすさん。

「その場合、ミャンマーじゃなくてビルマでしょ。」

突っ込み所を間違えてるさん。

「あーあ、それにしてもさっき千石コーチは格好良かったなぁ〜…」

そして急に静かになった休憩時間残り3分間、さんは
1人少女マンガ的ときめきモードに入る。
足元に屍と化したさんを転がしたまま……


つー訳で、木曜日はさんの中とか跡部氏の中とか
さんの状況とか千石氏の状況とかに変化をもたらして終わりを迎えた。

「あ゛ー明日も跡部のにーちゃんの日やんかぁ〜。
 どないしょう、今まで以上にヤバいがなぁ〜。」
「明日も千石コーチ居るんだよね…」
「…何密かにハートマーク飛ばしてはるんかな、さん?」
「何のこと?」

「あのサディストどないしたんや、えらい考え込んで?」
「サディストサディストうるせーぞ、この伊達眼鏡!」
「なっ……!?聞こえてたんか、チッ。
「てめぇ……」

「それでねー神尾クン、ちゃんとちょっとだけ仲良くなれたんだー。ラッキー☆」
「ハイハイ、俺の前でノロケはお断りっスよ。」
「まーそう言わずに聞いてよー。」
「仕事の邪魔っス!」

To be continued.

作者の後書き(戯言とも言う)

今回はあんまり笑えないかも。

………生みの苦しみっちゅーもんをイヤという程感じましたですよ、今回。

これでも書いたり消したり切ったり貼ったりの連続で手を入れたんですが、出来としては
うーむ、どないやろ。(-"-;)

それより今回はふと気がつけば大好きな漫画家、川原泉先生と被ってる箇所がいくつか…。

パクッたんじゃありませんよ! 無意識のうちに何か影響されるのが文に現れてしまったようです。
特に「…さんは死にました、今ミャンマーで竪琴弾いてます。」云々の辺りなんか
モロ読んでた作品の影響ですな(^_^;)

ちなみにこの作品作りに関わっている撃鉄の友人は千石氏の虎砲を打つ姿に惹かれて
突如乾ファンから千石ファンに転向した人です。

ついでに跡部氏の「3000回殺してやってもいいんだぜ。」とゆー台詞は昔、
撃鉄の知人がよく軽口で「3000回殺してやろうか」と言ってたのをちょっと借りました。

次は頑張ります。



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